第15章 おとぎのくにの 7
「いいから!私たちは大丈夫だから!とにかく早く着替えて!」
「えーと…さすがに着替えは持ってきてないんです…」
少し強い口調でまくし立てると、マサキは困ったように頭をかいた。
まさか湖に落ちるなんて想定外だったんだろう。
そうまでしてカズのブローチを守ってくれたマサキには本当に感謝しかないけれど、こんなに濡れたままで大丈夫なのかと心配になる。
いつの間にか泣き止んでいたカズも、自分のせいだと先ほどまでとは違う意味でまた泣きそうになっている。
「あっ!えっと!大丈夫です!」
そんな私たちの反応を見て、マサキは慌てて動き出した。
「拭くものはあるので!本当に大丈夫!」
大急ぎで荷物の元まで移動すると、大きめの布を取り出して見せて。
「すぐ拭いてきますから!ちょっと失礼します!」
こちらの様子を伺っていた他の護衛たちに目配せをしてから、走って木立の間に消えていった。
とりあえずびしょびしょの状態からは脱せそうで少しだけ安心したけれど、着替えがないことに変わりはない。
「早く帰りましょう」
元々もうすぐ出発する予定だったけれど、少しでも早く帰った方がいいと思う。
「はい!」
カズは涙で濡れたままだった目元をごしごしと拭うと、握りしめていたブローチを丁寧にポケットにしまった。
その姿を見たら、もう捨てたりすることはないだろうと思えてホッとした。
「すぐに荷物をまとめます!」
カズはマサキと入れ替わりに近づいて来た護衛たちに声を掛けると、食べたままになっていた昼食の片付けを始めた。
私はやっぱり手伝わせてもらえなかったから、おとなしく湖を眺めて待つことにする。
キラキラ光る青い湖。
最初からとても綺麗な景色だったけれど、今はもっともっと綺麗に見える気がした。