第15章 おとぎのくにの 7
「大切にしていいの…?」
「俺にはなんで大切にしちゃダメなのか分からないよ」
マサキは本当に不思議そうで。
ブローチをギュッと握りしめたカズの目から涙がぽろりとこぼれ落ちた。
マサキは何も知らない。
でも何も知らないから言える言葉なんだと思う。
だって今まで誰もそんなこと言ってくれなかった。
事情を知る人はみんな不自然なくらいショウたちのことには触れなくなって。
その名前を聞くことすらなくなって。
それが私たちを思ってのことだっていうのは分かっていたし、これ以上みんなに心配を掛けたくなかったから。
だから全部なかったことにしなきゃいけないんだと思った。
他にどうしたらいいのか分からなかった。
でも出来なくて。
全部忘れなきゃ、ショウへの想いを早く捨てなきゃって。
思えば思うほど苦しくなって。
だから何も考えないようにした。
人と会うことを避けて、自分の殻に閉じこもって。
最近は森に来ることで現実逃避をしていた。
でも、カズが捨てようとしたジュンへの想いをマサキが優しく拾い上げてくれて。
同時に私の心も救われたと思った。
マサキは何も知らない。
私たちに起きたことも、ショウたちの存在も。
マサキはカズが大切にしているブローチの話をしているだけだと思っているはず。
でもまだ好きでいていいんだって。
無理に忘れなくていいんだって。
許してもらえた気がした。
ショウのことをまだ想っていてもいいんだ…
そう思ったら目頭が熱くなって私の目からも涙が溢れた。