第15章 おとぎのくにの 7
でもマサキには伝わらない。
まだ首を傾げている。
カズがわざと曖昧に話しているんだから分からないのは当然で。
でもマサキは気を悪くした様子もないし、それ以上深く聞くこともしなかった。
たぶんカズが詳しいことは話したくないと思っているのを察してくれたんだと思う。
「俺はさ、カズが本気でいらないから捨てたいって思ってるなら何も言わない。でも今捨てたら絶対に後悔するよ、そんな顔してる」
マサキはただ自分の考えをカズに伝えていく。
「それにさ、無理やり捨てても、たぶんカズが忘れたい何かは忘れられないんじゃないかな。むしろ逆にずっと心に残っちゃう気がする」
マサキの口調に押し付ける感じは全くなくて、純粋にカズを心配しているのが伝わってくる。
だからカズも素直に耳を傾けていたけれど。
「忘れられない?」
「うん、きっとね」
「それじゃあどうしたらいいの?」
ふっと不安そうな顔になって、まるで幼い子どもみたいに質問をした。
マサキに助けを求めているみたいだった。
「そんなの簡単だよ。無理に捨てようとしないで、自然に忘れちゃう時まで大切にしたらいいんだよ」
「ずっと忘れられなかったら?」
「ずっと大切にすればいいよ」
とてもシンプルな答えに、カズは驚いたように目を見開いたけど、きっと私も同じような顔をしていると思う。
マサキの言葉はそれくらい衝撃的だった。
“無理に捨てなくていい”
“ずっと大切にしていい”
その言葉は私の心にもまっすぐに届いて。
目からうろこが落ちたみたいに、パッと視界が開けたような気がした。