第15章 おとぎのくにの 7
カズの手の中でお日さまの光を受けてキラキラ輝いているのは鳥のブローチ。
二人で出掛けた時にジュンに買ってもらったというそれは、カズの宝物だった。
カズがとても大切にしていたのは知っていたけど、今でも持ち歩いていたんだ…
それなのに、どうしていきなり捨てようとしたんだろう?
カズは呆然と返ってきたブローチを見つめている。
そんなカズにマサキが優しく声をかけた。
「ダメだよ、カズ。俺なんにも知らないけどさ、大切なものなんでしょ?カズの顔みたら分かるよ」
のろのろと顔を上げたカズは今にも泣きそうな顔をしていた。
「そんな泣きそうになるくらい大切なものを、簡単に捨てちゃダメ」
「簡単なんかじゃっ…」
諭すようなマサキの言葉に、珍しくカズが声を荒らげて。
でもすぐに唇をギュッと噛み締めて、言葉の続きを飲み込んでしまった。
マサキはキョトンとしているけど、私には分かった。
“簡単なんかじゃない”
“簡単に捨てようとしたわけじゃない”
それはそうだと思う。
カズは本当にこのブローチを大切にしていたから。
それを捨てようとするなんてよほどのことだと思う。
「……でも、捨てなきゃダメなんです」
「なんで?」
頑ななカズに、マサキが不思議そうに首を傾げる。
「早く忘れなきゃいけないのに…これがあるといつまでも忘れられないから…」
カズの悲痛な声に胸が締め付けられる。
ああ…カズが捨てようとしたのはブローチじゃなくてジュンへの想いなんだ…
なんで今、突然そんな行動をとったのかは分からない。
でもカズが必死でジュンへの想いを断ち切ろうとしているのは伝わってきた。
私の胸まで痛く苦しくなる。