第15章 おとぎのくにの 7
そんなある日、お兄さまが1人の少年を連れて部屋を訪ねてきた。
「今日から彼がサトたちの護衛につく」
「護衛…?」
突然のことに戸惑いが隠せない。
だって、確かに領地へ来るまでは大勢の護衛がついていたけれど、この屋敷内にいるのに護衛なんて必要あるの?
今の今まで護衛なんてついていなかったのに?
首を傾げる私に構うことなく、お兄さまは自分の斜め後ろに控えていた少年に自己紹介を促した。
「初めまして、マサキと申します」
一歩前に進み出てマサキと名乗った少年はとても緊張していて、ぺこりと頭を下げる動きもギクシャクしていた。
お兄さまの説明によると、彼は公爵家の騎士団に所属していて、まだ見習いだけど筋が良く将来有望と言われているそうだ。
マサキのお父さまも騎士団に所属していて、お母さまは侍女としてこの屋敷で働いていて身元は確か。
マサキはお父さまに憧れて騎士団に入団したらしい。
年齢は私の2歳下。
お兄さまが話している間も直立不動のままピクリとも動かないマサキ。
どんな人なのかさっぱり分からないけど、お兄さまが直々に面接をして選んだということだから、性格も実力も問題ないんだろう。
「マサキは生まれも育ちもここだから、この辺りのことにとても詳しいんだ。色々教えてもらうといいよ」
最後にそう言われたことで、たぶん護衛というのはただの名目で、きっとマサキは私たちの話し相手として選ばれたんだと気づいた。
きっとお兄さまはこちらに来ても部屋に閉じこもってばかりいる私を心配していたんだろう。