第15章 おとぎのくにの 7
お母さまを恨んでいないのは本当。
でもあの日以降、私はお母さまに会っていない。
まだ何も自分の中で消化出来ていない今、お母さまの口からショウとの結婚を望む言葉を聞かされたら、自分がどうなるか分からなかったから。
お父さまも無理して会うことはないって言ってくれたから、その言葉に甘えた。
私たちがここに帰ってくる頃には、お母さまも落ち着いているかな。
その時には私も何を言われても笑顔で答えられるようになっていたらいいなと思う。
「そろそろ行きますね」
別れを惜しむお父さまたちに任せていたらいつまで経っても出発出来なさそうだったから、思いきって声を上げた。
最後にお父さまとお兄さまたち全員と順番にハグをして。
生まれて初めて乗る馬車に乗り込んだら、急に家族と離れる実感が湧いてきてさみしさが込み上げてきた。
「サトさま…」
私に続いて馬車に乗り込んできたカズが、私を見て心配そうに顔を曇らせた。
「カズ、隣に座って?」
「はい」
向かい側に座ろうとしていたカズを私の隣に座らせて、その手をぎゅっと握ったら、すぐにカズもぎゅっと握り返してくれた。
その小さな手の温かさに力をもらって。
私たちの様子を心配そうに見ていたお父さまたちに、安心させるよう笑顔を向けた。
「行ってまいります」
ゆっくり動き出した馬車の窓からみんなに向かって手を振る。
少しずつ小さくなっていくみんなの姿に少し涙がこぼれたけど、門を出てみんなの姿が完全に見えなくなるまで手を振り続けた。
どんどん屋敷から遠ざかっていく。
カズは少し不安そうな顔をしてたけど、でもどこかホッとしてるようにも見えた。
カズは認めないと思うけど、この屋敷で働き続けることはやっぱりカズの心の負担になってたんじゃないかな。