第15章 おとぎのくにの 7
見送りには、家族だけじゃなく多くの使用人たちも仕事の手を止めて来てくれていて。
かなりの大人数が玄関前に集まっていたけれど、その中にお母さまはいらっしゃらなかった。
「お母さまは、まだ…?」
こそっと聞いてみるとお父さまは悲しそうな顔で首を横に振った。
お母さまは私たちの婚約の話が本当に白紙に戻ってしまったことにショックを受けて、あれからずっと部屋に閉じこもっているらしい。
私も自分の部屋に閉じこもっていたから直接確認したわけではないのだけど、お父さまから話を聞いて知っていた。
本物のお姫さまだったお母さまは、今までどんな無茶なワガママだって聞いてもらえたんだろう。
生まれて初めて自分の思い通りにいかないことに直面して、すっかりヘソを曲げてしまったらしい。
でも、基本的にお母さまに激甘で大抵のことならその願いを叶えてしまうお父さまにも、どうやらお父さまと同じくらいお母さまに激甘らしい王さまにも、今回ばかりはどうすることも出来なかった。
そりゃそうだよ。
どんなに偉くたって、どんなにお金があったって、人の性別を変えるなんて出来ないもん。
もしかしたら同性婚を認めるように法律を変えることは出来るのかもしれないけど…
それだって難しいだろうし、可能だったとしてもきっとものすごく時間が掛かるだろう。
そもそも同性婚が認められたとしても、ショウたちの同意がなければ結婚は出来ない。
あれだけカッコよくて性格もいい王子さまたちだもの。
私たちの婚約は政略的なものではなかったのだし、本物の女の子の中から可愛い子でも綺麗な子でも選び放題なのに、私たちみたいな女にも男にもどちらにもなりきれない中途半端な存在を選ぶ必要なんてない。
だからお母さまがどんなに望もうと、こればっかりはお父さまにだって王さまにだって叶えられない。