第15章 おとぎのくにの 7
もしそんなことがなかったとしても、カズにだってジュンとの思い出がたくさんあるわけで。
屋敷の中にいて何も感じないはずがない。
何で気づかなかったんだろう。
ちょっと考えれば分かることなのに。
いくら自ら望んで働いているからって、カズが無理してるのは気づいてたんだから、何かしら配慮は出来たはずだ。
カズは自分より私のことを優先してしまうから、カズのことは私が大切にしようって思ってたのに。
全然だめじゃん…
結局私も何も言わないカズに甘えて、自分のことしか考えられてなかったんだ。
自己嫌悪に陥って落ち込むけど、作り笑顔を崩さないカズを見てこのままじゃいけないって思う。
「2人が心に負った傷は、私には想像することも出来ないくらい深くて大きいものだろう。そんな簡単に消えるようなものじゃない。だから今はとにかくゆっくり休んで少しでも心の傷を癒してほしいと思っていた。でもこのままこの屋敷に居ても心は休まらないだろう」
確かに、部屋に閉じこもっていても何も変わらなかった。
ふとした時にショウのことを思い出しては胸が痛むし、何もすることのない状態にむしろ不安は増していた。
カズに至っては傷が癒えるどころか広がってしまっているかもしれない。
領地へ行く、か…
それもいいのかもしれない。
場所を変えたってどうにもならないかもしれない。
それでもこのままの状態を続けるよりはいいんじゃないかな。
もちろん不安はある。
何しろ生まれてから一度もこの屋敷の外に出たことがないんだから。
それでも今はそれくらい思いきってみた方がいい気がした。