第2章 おとぎのくにの 2
「なんで誕生日を教えなかったかって···自分から言うなんて祝えって催促してるみたいで恥ずかしかったから···ショウ兄さんからサト経由で伝わると思ったし」
サトは俺の言い訳を黙って聞いてくれたけど
「でも自分から言えば良かったかもってちょっと後悔してた」
最後まで聞くと、はぁっとため息を吐いた。
「カズはね、ジュンから教えてもらえなかったことがショックだったみたいだよ。ジュンにとって自分は誕生日を教える価値もない存在なんだって思ったみたい」
「はぁっ!?」
「だから自分なんかに祝われても嬉しくないんじゃないかって、今日もギリギリまで参加するか悩んでた」
「なんでそんなことっ···」
思わず声を荒げてしまう。
サトにぶつけたって仕方ないのに。
「カズにとって身分の差は、私たちが思ってるよりも···ううん、私たちにはきっと想像もできないくらいものすごく大きくて重たいの」
サトはそんな俺を咎めることなく静かに続けた。
身分の壁は俺だって感じてる。
でもカズにとってはもっとずっと大きいのか。
「それでも自分に出来る精一杯でお祝いしたいって、頑張って贈り物も用意してたんだよ」
「贈り物?」
「ジュンのイニシャルを刺繍したハンカチ」
サトが悲しそうに微笑んだ。
「刺繍はまだ習い始めたばかりでね、カズはあまり得意じゃないの。それでも毎日一生懸命頑張って仕上げたんだけど···」
その視線が俺の手にしたハンカチに注がれて。
俺にもサトの言いたいことが分かった。
「クソッ」
思わず吐き捨てるように悪態をついてしまう。
もちろんサトに向けてじゃない。
自分に向けてだ。
「タイミングというか、運が悪かったとしか言いようがないな」
ショウ兄さんが深いため息を吐いた。
よりによって何で今日このハンカチを持ってきてしまったのだろう。
それを不用意にカズに見せてしまった。
それも、よその令嬢からもらっただなんて余計な説明までつけて。
カズはどんな気持ちでこのハンカチを見ていたのだろうか。
何も知らなかったとはいえ、先刻の自分をぶん殴りたかった。