第2章 おとぎのくにの 2
カズの手を掴んだまま指先を冷やしていたら、カズがハンカチをじっと見つめた。
「ハンカチがどうかした?」
「いえ···とても素敵な刺繍だと思って···」
このハンカチには、イニシャルの周りをたくさんの花々が取り囲んだちょっと凝ったデザインの刺繍が施されている。
やはり女の子はこういう綺麗なものが好きなんだろうか。
「そうか。これは確か候爵家の令嬢からもらったものだったかな」
「···そうですか。本当に綺麗···」
呟きの途中でフッとカズの表情が曇ったと思ったら、その瞳からポロポロと涙が溢れだした。
「カズっ!?どうした?指が痛むのか?」
突然の涙に動揺して、おろおろしていたら
「なんでもありません···あの···ハンカチ洗ってきますね」
「カズっ!?」
カズは逃げるように走り去ってしまった。
突然のことに呆然とする。
「なに?」
洗ってくると言ったハンカチは俺の手に残されている。
「なんで?俺なんかした?」
カズの行動が全く理解出来ない。
「してないと思うけど···」
ショウ兄さんも同じく呆気に取られた顔をしていた。
「でも今日のカズは最初から様子が変だったよな」
「うん。いつものカズならお茶を溢すなんてあり得ないし」
完璧な礼儀作法が身に付いているはずのカズらしくない失敗だった。
兄さんの言う通り、今日のカズは様子がおかしかったからずっと心配してた。
結局その心配が的中してしまった訳だけど、泣きながら逃げるほどのことではないと思う。
「サト、カズは一体どうしたの?何か知ってる?」
サトに尋ねると、サトも泣きそうな顔になりながら頷いた。
「知ってるけど、先に聞かせて?どうしてカズに誕生日を教えなかったの?」
「どうしてって···」
何故か逆に質問される。
なんで今俺の誕生日の話になるんだ?
「それはカズが泣いてたことと関係あるの?」
「ある!」
サトが妙にきっぱり断言するので、先に答えることにした。