第14章 おとぎのくにの 6
本当だったら今頃サトと2人、ここにいる全ての人から祝福されているはずだったのに…
ちょっと想像して、現実とのあまりの違いに気持ちが沈んでいく。
俺とサトの婚約はまだごく内々にしか伝えられていなかったが、こういう情報はどこからともなく漏れ広がるものみたいで、いつの間にか周知の事実になっていて。
今日サトが社交界デビューするのと同時に正式発表されるというのも、しっかり噂になっていた。
だからサトが現れなかったことに対して、会場のあちらこちらでヒソヒソと憶測が飛んでいた。
大半は公爵の言うことをそのまま信じてサトの身を案じているようだったが。
何をどう受け取ったのか、サトがいない隙にとでも言うように、着飾った一部の令嬢たちが猫なで声で擦り寄ってきた。
でも誰も俺のことなんか見ていない。
見ているのは王子という肩書きと顔だけ。
何とかして王族に取り入りたいという思惑が透けて見えて気持ちが悪い。
俺を取り囲んだ令嬢たちは、急遽欠席したサトの体調を心配するフリをしながら、その実サトを貶めて醜く笑う。
作り笑顔で聞き流しているが、胃がムカムカしてたまらない。
ここにいる誰もサトに会ったことも見たこともないくせによく悪く言えるもんだ。
人を貶めることでしか自分を良く見せられないんだろうか。
はっきり言って、ここにいる誰も、性格も外見もサトには敵わない。
それだけじゃない。礼儀作法も教養も、ちょっとした仕草でさえサト以上の令嬢なんていない。
ちょっと接しただけで分かる。
でもサトとの婚約がなくなった今、こんなやつらの中から新たに結婚相手を選ばなければいけないのか…
ふと気付いてしまった事実に、絶望的な気持ちになった。