第2章 おとぎのくにの 2
「カズも座ってよ。一緒に飲もう?」
全員にお茶を淹れ終わったのに、少し離れて控えるように立ったままのカズに声をかける。
「私も···いいんですか?」
「いいに決まってるじゃん!早く座って!」
「···はい、失礼します」
カズは何だかいつも以上に遠慮しているように見える。
やっぱり今日のカズは少しおかしい。
おずおずと俺の隣に座るが、何も口をつけようとしない。
「ほら、カズも飲んで?冷めちゃうよ?」
「すみません···いただきます···あっ···」
声をかけたらやっとティーカップに手を伸ばしたが、なぜか指先が震えていてうまく掴めなかったようだ。
カチャンと音を立ててカップがひっくり返る。
「申し訳ありませんっ」
テーブルクロスに紅茶の染みが広がっていくのを見て、カズの顔から血の気が引いていく。
「カズ、落ち着いて。大丈夫だから」
「それより手は痛くない?少し掛かったでしょ?」
慌てふためくカズにサトと兄さんが優しく声をかけるが、カズは泣きそうな顔で震えている。
その手を見ると指が赤くなって痛そうだった。
「大丈夫ですっ···すぐに片付けますから···」
「ばか!真っ赤じゃないか!大丈夫なわけないだろう!」
自分のことなど何も構わずに片付け始めようとしたカズに向かって、つい大きな声を出してしまった。
怒鳴られて驚いたのか、ビクッと震えて固まったカズの手首を掴む。
水差しの水でハンカチを濡らしてカズの手に当てた。
「おやめください!ジュンさまのハンカチが汚れてしまいます!」
「ハンカチなんてどうでもいい!カズの手に火傷のあとが残ったらどうするんだ!」
早く冷やしたいのに、ハンカチのことなんかを気にして手を引こうとするカズに、再び大きな声を出してしまう。
「私の手なんて···」
「この可愛い手に傷が残るなんて俺がいやだ」
「ジュンさま···」
「おとなしく冷やしておけ」
「···はい···ありがとうございます」
半ば力尽くでハンカチで指先を包むと、ようやくカズもおとなしくなった。