第14章 おとぎのくにの 6
「ジュン…」
ジュンを見た母上が驚いたように目を見開いた。
つられて見るとジュンが泣いていた。
声を出さずに静かに涙を流している。
入室してからずっと存在を忘れてしまいそうなくらい静かで、話を聞いているのかも怪しかったけれど。
もうとっくに限界を超えていたんだろう。
感情が抜け落ちてしまったように無表情で。
何も映していない瞳からただ涙がこぼれ落ちていく。
これ以上は無理だ…
「母上、今日はもう失礼していいですか?」
「ええ」
母上も同じように感じたのかすぐに頷いてくれたから、ジュンを連れて部屋を出た。
でも、俺の後ろをフラフラついてくるジュンに掛ける言葉は見つからなかった。
ジュンを部屋に送り届けて、人払いをした自室でベッドに転がり目を閉じる。
頭も体も心も疲れ切っていて、俺ももう限界だった。
このまま何も考えず夢の世界に逃げてしまいたかったけれど、むしろ目は冴えていて。
父上、母上、公爵、サト、カズ、ジュン…今日会ったみんなの顔が、言葉が、頭の中でずっと渦巻いている。
自分の言動を振り返ると後悔ばかりで。
俺は何をどうしたら良かったのかなと考えるけど。
何をどう考えたって現実は変えられない。
サトが男だって事実は変わらなくて。
サトと結婚出来ないって事実も変わらなくて。
それでもサトを想う気持ちも変わらなくて…
「……………サト……」
名前を呼んでみたら涙がこぼれた。