第14章 おとぎのくにの 6
でも扉を閉めた瞬間に後悔した。
扉越しに押し殺したサトの泣き声が聞こえてきたから。
「ショウ……」
聞いただけで胸が苦しくなるような切ない声で名前を呼ばれて。
反射的に閉めたばかりの扉に再び手を伸ばしかけたけれど。
「ショウさま」
ノブに触れる前に、いつの間にかそばに来ていた公爵に止められてしまった。
「もうショウさまには何の関係もない娘です。どうぞ捨て置きください」
言葉こそ丁寧だが、明らかに俺を拒絶している。
もうサトに関わるなとその目が訴えていた。
その間も泣き声が止むことはない。
本当はすぐにでもサトの元に駆け戻って抱き締めたかった。
その涙を拭ってやりたかった。
だけど公爵の言う通り、婚約が破棄された今、俺にはそんなことをする権利はない。
大体、サトを泣かせたのは俺じゃないか…
見えないことに勝手に怯えて逃げ出した。
サトは俺の言葉を待っていたかもしれないのに。
そんな俺が今さらどの面下げてサトの元へ戻るって言うんだ…
泣き声が2人分に増えても、俺たちは何も出来ず、何も言えず、ただ立ち尽くすことしか出来なくて。
結局、公爵によって半ば強引に屋敷から連れ出され、馬車に詰め込まれた。
「本日は御足労いただきありがとうございました」
最後に公爵は深々と頭を下げた。
「このようなことになり本当に申し訳ないと思っています。ですが、娘たちにはもう二度と関わらないでください」
きっぱりと言い切られて、また胸が痛む。
「それがお互いのためだと思います」
きっと公爵の言葉はサトやカズだけではなく、俺たちのことも慮ってのものだったんだと思う。
それでも俺は、はい とも いいえ とも答えることが出来なかった。