第14章 おとぎのくにの 6
その沈黙をサトがどう受け取ったかは分からないけれど。
サトは姿勢を正すと、にこりと笑顔を浮かべた。
それは今まで見た中で一番綺麗で、一番悲しそうな笑顔だった。
「もう二度とお会いすることはないでしょう。どうかお元気で。ショウさまとジュンさまのご活躍を遠くからお祈り致しております」
急に丁寧になった言葉に、他人行儀な態度に。
サトが全部終わらせようとしていることを悟る。
もう婚約者ではない。
友人でもない。
そう態度で伝えてくるサトに、一線を引かれたことが分かる。
「さようなら。今までありがとうございました」
サトは俺を見ることなく、とても優雅な所作で頭を下げた。
それを信じられない思いで見つめる。
本当にこれで終わりなのか?
お互いに好きなのに…
想い合っているのに…
本当にこれでお別れなのか?
いやだ!!
忘れられるはずない…
婚約破棄なんてしたくなんてない…
俺はサトが好きだ!!
まだ好きなんだよ!!
心が悲鳴をあげる。
でもサトが男だという事実が、言葉にするのを躊躇わせる。
俺たちは結婚出来ない。
泣いても喚いても現実は変わらない。
混乱する自分の中には妙に冷静な自分もいて、泣くことさえ出来ない。
それでも最後に何か伝えなくちゃと思ったけど、頭をあげる気配のないサトはもう何もかもを拒絶しているように見えて。
結局なんの言葉も掛けられないまま、逃げるように部屋を出てしまった。