第14章 おとぎのくにの 6
「では、行ってきます」
ジュンは、踵を返してすぐにでも飛び出して行きそうだったけれど。
「待て」
思わずその手を掴んで止めてしまった。
「なんですか?」
行くなと言われると思ったのか、ジュンは睨むようにして振り返ったけれど。
「俺も行く」
そう告げると、ホッとしたように表情を緩めた。
ジュン1人で行かせるのはちょっと心配だし。
それに、きっとこの問題はいくら部屋で1人で考えたところで求める答えが見つかることはないだろう。
だって、本当の答えを持っているのはサトたちだけなんだから。
それなら直接聞くしかないんだ。
公爵家へ向かう馬車の中は沈黙に包まれていた。
サトに会いに行くのに、こんなに緊張して気が重いのは初めてだった。
通い慣れた道なのに、公爵家がやたら遠く感じて。
やっとたどり着いた屋敷で、執事が僅かに戸惑った様子を見せたことで、なんの連絡もなく押し掛けてしまったことに気が付いた。
そんな最低限の礼も忘れてしまうほど動揺しているのか、俺は…
無作法なことをしてしまったが、追い返されることはなく、通された応接間でサトを待つ間もソワソワと落ち着かなかった。
それでも、何となくサトに会えば全部解決すると思っていた。
きっと、男なんて嘘だよって。
何騙されてるの?って。
いつもの笑顔で笑い飛ばしてもらえるって。
……婚約破棄なんて嘘だと思いたかったから。