第13章 おとぎのくにの 5
「カズのことは正式に養女として我が家に迎えるつもりだ。こんなことが償いになるとは思わないが、カズのことも娘として公爵家で面倒を見させてほしい」
昨夜聞いたカズを養女にする話。
お父さまはそのまま進めるつもりらしい。
でも、カズは驚いたように目を見張ると両手をぶんぶん振った。
「そんな…私はこの先もサトさまにお仕え出来れば、それだけで十分ですから…」
「そうか、無理強いはしないよ。カズが望むようにしよう」
カズが遠回しに断ると、お父さまはあっさりと引いた。
きっと身分なんて関係なくカズの面倒を見るつもりなんだと思う。
「2人ともこれからもずっとうちに居ればいい」
お父さまのその言葉は私たちを想って言ってくれたものだと分かるけど…
“これからも”
“ずっとうちに”
何気ないはずの一言一言が引っ掛かった。
ああ、やっぱり避けては通れないか…
本当は聞きたくない。
でも、聞かないわけにはいかない。
「お父さま、婚約のお話は…」
意を決して口を開くと、お父さまは辛そうに顔を歪めた。
全部聞くまでもなく、お父さまのその反応でもう十分だった。
「やっぱりなくなったのですね…」
「まだ確定ではないが…恐らく白紙に戻るだろう…」
苦い顔で肯定するお父さまの言葉を聞いて、静かに息を吐き出すと。
胸の中が諦めのような気持ちでいっぱいになった。
昨夜から婚約のことはなるべく考えないようにしていた。
だって答えは分かっていたから。
今まで読んだどの本でも、恋物語に出てくる恋人たちは必ず男性と女性だった。
王子様とお姫様でも、身分を超えた恋でも。
男性と結ばれるのは必ず女性。
男性同士の恋物語なんて1つもなかった。
だから、私が男ならショウとは結婚出来ないって…
世間をあまり知らない私でも分かってた。