第13章 おとぎのくにの 5
カズだってまだ全てを受け入れられた訳じゃないはずだ。
これはそんな簡単に受け入れられるようなことじゃない。
カズにも色々思うことはあるだろう。
不安だって大きいはずだ。
それでもカズは笑うんだ。
私のために。
それなら私も笑おう。
カズのために。
「……ありがとう、カズ」
微笑み合う私たちを見たお父さまは逆にとても苦しそうな顔になった。
かと思うと…
「サトにもカズにも本当にすまないことをしたと思っている…申し訳ない…」
突然深々と頭を下げた。
「お父さま!?」
「旦那さま!?」
こんなお父さま見たことがなくて焦ってしまう。
お父さまはとても優しいけれど、いつだって堂々としていて簡単に人に頭を下げることはしない。
そんな立場の人間ではないからだ。
そのお父さまが私たちに対して頭を下げ続けている。
「私しか止められる人間はいなかったのに、全く気付くことが出来なかった…本当にすまない…」
その姿にお父さまの深い後悔が見える気がした。
でもお父さまが謝ることなんてない。
カズが私を責めなかったように、私もお父さまを責める気なんて全くない。
「お父さまのせいではありません。どうか頭を上げてください」
懇願して何とかお父さまに顔を上げてもらう。
その表情にはまだ悔いの色が濃く滲んでいたけれど、じっと私を見つめる目には変わらぬ愛情が見えた。
「サトが男でも女でも私の大切な子どもであることに変わりはない。変わらずに愛しているよ」
お兄さまと同じ。
性別なんか関係なく愛していると。
何も変わらないと言葉で伝えてくれることが嬉しくて。
とても安心した。