第13章 おとぎのくにの 5
それは、私が生まれた日の話だった。
生まれたのは男の赤ちゃんだったこと。
無事に生まれてきてくれて嬉しかったこと。
ただ子どもが息子ばかりだったお母さまは、どうしても娘が欲しかったこと。
腕に抱いた赤ちゃんがとても可愛かったから、その場で娘として育てると決めたこと。
いつか驚かせようと思って、お父さまにもお兄さまたちにも内緒にしていたこと…
衝撃的な内容なのに、懐かしそうに語るお母さまはやっぱりとても楽しそうで。
当時の私のことを口にする度に幸せそうに微笑んで。
お母さまの私への愛情はひしひしと伝わってくるけど。
私はもう頭が真っ白で。
考えることを拒否していて。
お母さまの話を聞いて、どんどん顔色の悪くなっていくお父さまとお兄さまたちをただぼんやりと眺めていた。
「このことは他に誰が知っているんだい?」
「サトを取り上げてくれたお医者さまと侍女長、あとはサトの乳母だったカズの母親かしら…?」
お父さまに聞かれてお母さまが首を傾げる。
「サト付きの侍女たちも知っているかもしれないけれど、詳しいことは私は知らないわ。侍女長が把握していると思うけれど」
お母さまが部屋の隅に控えていた侍女長を振り返ると、侍女長は真っ青な顔で頷いた。
「いつか来るこの時を、あの日からずっと待っておりました。どんな罰も受ける覚悟は出来ています」
侍女長がまるで懺悔をするように頭を下げる。
「いや、まずは話を聞かせてほしい」
「はい、私の知る全てをお話させていただきます」
「ああ、よろしく頼む」
お父さまは重々しく頷くと、席を立って私たちのそばまでやってきた。
お父さまの私を見る目は今までと何も変わらずとても優しくて。
「サトはもう部屋に戻りなさい。話は明日しよう。今晩はゆっくり休みなさい」
その声には心配が滲んでいる。
いつも通りのお父さまの態度に安心してこくりと頷くと、お父さまはカズにも声を掛けて。
そのまま、お母さまと侍女長を連れて部屋を出て行った。