第1章 おとぎのくにの
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
日が暮れてショウたちが城へ帰る時間になってしまった。
「サト、そんな顔しないで」
「ショウ···」
夢みたいに楽しかった分、別れが悲しくて。
口を開けば涙が出そうだった。
ショウは困ったような顔をして、そっと私の頬に触れる。
「また会いに来るよ。手紙も書くから」
「楽しみに待ってる」
あたたかいショウの手に自分の手を重ねた。
「ずいぶん仲良くなったのね」
私たちの様子を見たお母さまが嬉しそうに微笑む。
「はい、お母さま。友だちになりました」
「友だち、ね···ふふっ」
ちょっと意味深な笑顔が気にならなくもないけれど、今はショウとの時間の方が大切だ。
「サト、またね」
「うん、またね」
ショウは私の手を取ると、甲にそっとキスをした。
「約束のしるし」
イタズラっぽく片目を瞑るショウに、私は頬が熱くなるのをとめられない。
隣ではジュンがショウのマネをしてカズの手の甲にキスをしていて。
顔から火を吹きそうなほど真っ赤になったカズは可哀想なくらい動揺していた。
そんなカズの姿に、可哀想とは思いつつ、つい吹き出してしまう。
カズは恨みがましく睨んできたが、笑ったおかげで私は少し冷静を取り戻せた。
馬車から身を乗り出して手を振ってくれる2人に手を振り返しながら、馬車が見えなくなるまでその場で見送った。
「今日は夢みたいだったね」
「本当ですね」
夜、寝る前に自室でカズと今日を振り返る。
本当に夢でも見ていたんじゃないだろうかと不安になるくらい幸せな1日だった。
「次はいつ会えるかな?」
「それは分かりませんけど···きっとすぐ会えますよ」
「そうだよね、約束してくれたもんね」
キスされた手の甲を見つめると、カズも思い出したのか頬をピンクに染めた。
この時の私は、なにも知らなかった。
実は今日のお茶会が王子と私の婚約前の顔合わせだったこと。
ショウかジュンかどちらと婚約するか様子を見られていたこと。
別れの時のやり取りで、ショウに決まったこと。
ショウ王子と私の婚約が正式に発表されるのは、もう少し後のお話。
end