第1章 おとぎのくにの
屋敷の外に出られない私のために作られた庭は、実はとてもすごいらしい。
お兄さまたちは、王宮の庭にも負けないと仰っていた。
私には見比べることが出来ないから分からないけれど、とても綺麗だということは分かる。
ゆっくりと並んで歩きながら、薔薇園や噴水、温室などを案内してまわる。
「見事な庭ですね」
「うちの庭よりきれい」
ほうっとため息を吐いたショウさまとジュンさまは本当に感心してくださっているようで、その声に嘘やお世辞は感じられない。
「ありがとうございます」
私の大好きな庭を気に入ってもらえたようで嬉しかった。
「私たち、一度もこの屋敷から出たことがないんです。それで私たちのためにお父さまがこの庭を作ってくださって···」
「ええっ!?」
ずっと穏やかな態度だったショウさまが、私の話を遮るように大きな声を出した。
「ああっ、大きな声を出して申し訳ありませんっ!」
驚いて口を閉ざした私に気付くと、慌てて謝ってくれたが
「外に出たことがないんですか?一度も?」
何とも言えない顔で確認される。
一度も外へ出たことがないというのは、そこまで驚くようなことなのだろうか?
「はい。屋敷の者以外と接するのも初めてです」
「どうして?」
「どうしてでしょう?お父さまもお兄さまたちも心配性だから···ですかね?」
私にだってはっきりとした理由は分からない。
「カズも?外に出たことないの?」
「はい」
ジュンさまに聞かれたカズもこくりと頷いた。
「外に出たいと思われないんですか?」
ショウさまの質問に改めて考える。
出たくないと言えば嘘になるけれど···
「憧れはありますけど、お父さまたちに心配掛けてまで出たいとは思いません」
それが今の私が心から思うこと。