第5章 おとぎのくにの 3
帰りの馬車の中。
目の前に座るカズの目は今にも閉じそうで。
首がかくんと落ちてはその衝撃で目を覚まし、慌てて背筋を伸ばす…というのを何度も繰り返している。
必死で眠気と戦う姿は可愛いけど。
寝ていいのにな…
だって1日中歩き回っていたから疲れているのは当たり前なんだ。
俺だって疲れてる。
その上カズは初めての外出だったから、緊張もしていただろうし、興奮もしていたし。
とっくに体力の限界は超えていると思う。
「カズ、寝ていいよ?」
「いいえ!ジュンさまの前でそんなこと…」
でも良かれと思ってそう声を掛けても、カズはむしろ目に力を入れて決して寝まいと意地になってしまう。
どう見ても眠そうなのにな…
身分とかまたゴチャゴチャ考えてるんだろうけど、俺が寝たらカズも寝るかな?
残りわずかなカズと2人きりの時間を寝て終わらせてしまうのは勿体ないから本当に寝るつもりはないけど。
余計なことは言わずに黙って目を閉じてみる。
寝たフリをしつつ、時々薄目を開けてカズの様子をこっそり伺っていたら、すぐにカズの瞼も落ちてきて。
やがて、すーすーと小さな寝息も聞こえてきた。
本格的に寝たかな?
そーっと目を開いてみると、目の前には子犬みたいな可愛い寝顔があった。