第5章 おとぎのくにの 3
「はい」
「ありがとうございます」
支払いを済ませてカズに手渡すと、カズはまるで宝物をもらうかのように両手でそっと受け取った。
悩みに悩んだ末に選んだのは小ぶりのブローチ。
2羽の鳥が仲良く寄り添いながら大きく羽を広げて飛んでいるモチーフで。
鳥の目と羽の部分にガラスの石が嵌っていてキラキラしている。
今日はカズが生まれて初めて屋敷から外の世界へ1歩踏み出した記念の日だから。
青空を自由に飛ぶ鳥に、初めての世界を楽しんでいた今日のカズの姿を重ねてみた。
もちろん、寄り添うもう1羽の鳥は俺のつもりだ。
出来ればこの鳥たちのように、俺もカズといつまでもずっと寄り添っていたいっていう願望も込めてある。
カズは両手で包むように持ったブローチを見つめたままピクリとも動かなくて。
俯いた顔に髪の毛が掛かって表情が見えない。
「どうかな?気に入ってくれた?」
少し不安になって声を掛けたら、カズはパッと顔を上げた。
「はいっ…とても…とても嬉しいです」
ブローチを胸の前でぎゅっと握り締めて、まっすぐ俺を見つめている。
「ありがとうございます、ジュンさま」
その今日一番かもしれない満面の笑顔が、弾んだ声が、本当に嬉しいんだって伝えてくれて。
俺もすごく嬉しくなった。