第33章 特別編:バレンタインキッス。
*scene3:だって思春期*
「もーいやだああああああ!」
「うるさいよーコガ」
うるさいのは自分でも分かってる。
でも さすがに今日は叫ばずにはいられない。
「だってさ みんなチョコ押し付けてくるのに
全部俺のじゃないんだぜ!?
伊月とか直接渡せばいいのにさー!」
「うんうん」
「水戸部だって基本席いるのにさ
もうちょっと頑張れよ女子!」
「そうだね」
「挙げ句の果てにツッチーの彼女も相談来たし!
普通彼女から物貰ったらうれしいよ
ていうか彼女いるだけで嬉しいよ!」
「聞いてて悲しくなるね」
「公野ぜってー話聞いてないだろ!」
「んー ぼちぼち?」
チョコが貰える奴らにとってはいい日なのかもしれない。
でも貰えない上に 人の渡す手助けばかりさせられる俺からしたら…
「バレンタインなんて…平日だあああ!」
「はいはい ちょっと黙ろうか」
「公野は誰かにチョコあげねーの?」
「私?いないよそんな相手」
「おっしゃ仲間ー!」
「友だちから貰った分のお返し考えないとなぁ…」
「くっそおおお!なんだよ友だちからって…」
「五円が●るよチョコとかでいいかな」
「いやーそれは怒られるだろ…」
「はは 冗談冗談」
からからと笑い 誰といても自分のペースをくずさない
公野のこういうところがすきだ。
友だちとして、だけど。
もしかしたらこいつならチョコをくれるんじゃないかと思ったけど
こいつがめんどくさがりであることを考えていなかった。
「っと 俺部活行かねーと」
「あー ちょっとコガ」
公野が俺を呼びとめる。
「ん 何?」
「はい これあげる」
ロリポップを渡された。ココア味。
「来年は手作りとか貰えるといいね」
そう言い残して帰ろうとする背中に俺は叫ぶ。
「公野!」
眉間に軽くしわを寄せながら振り向く。
「もー聞こえてるって なに…」
「ありがとな!」
一瞬目を大きく開いてから
にっ、と笑ったあいつが
やっぱりすきだと思った。
end**