第31章 となりの桜井くん*back ground
公子さんの手から放たれた最後のボールが、きれいに弧を描いてゴールをくぐった。
「10本中9本…やるじゃん私!」
アトラクションを乗りつくした僕たちは、入口付近のゲームゾーンを見てまわっていた。
フリースローのゲームで公子さんは楽しんでいるけど、バスケ部の僕が負けるわけにはいかない。
それに全部入れたときの景品のぬいぐるみがすごくかわいい、公子さんに渡せたらいいな。
「見ててください、公子さんが惚れちゃうようなシュート決めますから!」
「すごいね、全部入れちゃうんだもん。さすがバスケ部の特攻隊長!」
というわけで、なんとか全本決めることができた僕は大きめのぬいぐるみを両手に抱え、公子さんと並んで帰路についていた。
「桜井くんはほんとにかわいいものが似合うね。今日の服もおしゃれだしかわいい」
「あ ありがとうございます」
「私には似合わないや」
まただ。
またそうやって自分のことを卑下して、僕の気持ちも知らないで。
「…公子さん、これあげる」
僕から受け取ったぬいぐるみを眺めた後、少し頬を赤くしながら、しあわせいっぱいの笑顔でぎゅっと抱きしめた。
…やばい、かわいい。
「やっぱり公子さんには、かわいいものが似合います」
公子さん、あのね
本当は何を持っていても、あなたはかわいいんだよ…---
そんな言葉がうっかり口から出かけて、僕は気づかれないように慌ててへへっと笑う。
夕日が僕らのことを黄昏色に照らす。このくらいまぶしかったら、きっと僕の頬が赤いのは気づかれないだろう。
今日もまた想いを伝えられなかった。
けど、それでも…
いつか、あなたの目をまっすぐ見て、言えますように。
end**