第31章 となりの桜井くん*back ground
安全バーに掴まりながら外をちらりと見る。
もう無理、絶対無理、高すぎ。
多分今、顔面蒼白ってやつだ。
「あー、もうてっぺん来ちゃったね」
公子さん、よくそんな呑気なこと言えますね。
嗚呼、南無三…―――
「気分どう?」
「すいません公子さん…」
密かに思いを寄せているひとつ年上の公子さんと、成り行きで一緒に遊園地に来たはいいけど…
絶叫系への耐性があまりにも違いすぎて、さっきからかっこ悪いところばかり見せてしまっている。
けど今こうしてベンチでふたりのんびりできているから、チケットをくれた若松先輩には本当に感謝しなきゃだ。
はい、と公子さんから手渡されたペットボトルに口をつける。
飲む前は気分が悪かったけど、ミルクティーのおいしさと公子さんといられる安心感からか、具合がよくなってきた。
「このミルクティーおいしいですね」
「でしょ、やっぱりロイヤルってつくと違うね」
そんなよさげなやつなのか…なんて思いながら飲んでいたら、いつのまにか残りが半分くらいになっているのが見え、慌てて飲むのをやめた。
「すいません!僕すごい飲んで…」
「あーいいよ、私も飲んでたし」
「ほんとすいませ…え?」
僕は一旦喋るのをやめ、先程の会話を脳内再生する。
『私も飲んでたし』…うん?
「…これ、公子さんの飲みかけ…?」
「そう、飲みかけ」
「…!!」
自分でも顔が赤くなるのがわかった。
「かかかか、間接ちゅーじゃないですか!」
そんなこと気にしなくてもいいのにー、とけらけら笑う公子さん。
嫌がられないのは喜ぶべきところなのかもしれないけど、僕のことを男としてみていないのだろうか。
公子さんは僕のことをかわいいと言ってくれるけど、きっと僕が公子さんに抱いている「かわいい」とは違うものなんだ。
時計をちらりと見る。午後3時。
帰るまでにかっこいいところを見せなきゃだ!
桜井くんそれ乗れるの-?と、小走りをしながら言う公子さんの声を聞きながら、僕は苦手な絶叫系へ向かった。
to be continued**