第30章 となりの今吉くん*back ground
部活を終えたワシは
曇天の空の下待っとるであろう彼女のもとへ急ぐ。
「おー公子 まだおったんか」
小さく丸めていた背中を伸ばしながら、ワシを待つ彼女は澄んだ声で返す。
「翔一が言ったんじゃん 待ってるんやでーって」
公子は寒がりのくせにすなおにワシの言ったところで待っておったみたいで、手に息を吐きながら少し眉間にシワを寄せる。
彼女のこんなところが愛おしくてたまんくて、にやけを隠せんままワシらは歩みを進めた。
孤独を好む公子のことが気になりだしたのは、ワシが中学生のときやった。
話を聴いてみると女子のあれこれが嫌いみたいやったけど、そんなの何の障害にも思わんかった。
まぁ言ってしまえば、一目惚れゆーやつや。
「来年もう3年だよ はやいなぁ」
「せやなぁ ほんまあっちゅーまやったわ」
「バスケ部はまだ引退ないんだっけ?」
「当たり前やろ こないだ主将なったばっかりやし
来年はワシらの時代やで!」
負けるわけにはいかん。ワシ個人が貪欲やゆーのもあるけど、せっかくチームでするスポーツなんやし、やっぱりみんなで勝ちたい。
特に、来年度には青峰が来るしな。
そんなことを考えていたら、いつのまにか公子がワシのことをじいっと見とるのに気づいた。
「さっき翔一悪い顔してたよ なんかいいことあったの?」
「あかんなぁ 公子には何でもバレてまう…
ここだけの話 来年すごい新入生が来るかもしれん」
ワシは青峰の話をした。
相変わらずにこりともせん公子やけど、ちゃんと聞いてくれとるのはすごくわかる。
「…ねぇ」
と、徐に公子が口を開いた。
「ん?なんや」
「もしさ 今より…」
口をつぐまれた。なんや、気になるやんけ。
「なんや?言いたいことあるんならちゃんと言い」
「…んー なんでもないよ」
さっき青峰の話をしながらぼやーっと考えとった。
3年になったら今より忙しくなって、公子との時間がもっと減ってまうやないんやろか。
公子とおれる時間が減ってまうのは、嫌やな…
to be continued**