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となりの彼。【黒子のバスケ短編集】

第26章 となりの伊月くん*back ground



映画を観終わった後 俺たちは
公園を歩きながら映画について話していた。
公野さんの手を感覚をぼんやり思い出していると
彼女はなんとなしに切り出してきた。

「あのさ伊月くん 私手を…」

伏せがちになる公野さんの目。
彼女に言わなきゃいけない、と思った。
俺が経験した 感じた全部を。

「伊月くん?」
「…もうひきずってないと思ってたんだ」



俺はこの夏にあったことを公野さんに話した。
負けたことも 感じたことも
つまりながら 余すことなく 全部。

「負けるのは気持ちがいいもんじゃないし悔しい
でも今日の映画を観て思ったんだ」
「何を?」
「勝つときに仲間がいるように
負けるときも 俺はひとりじゃない」

言わなきゃいけない。
何よりも伝えたかった言葉を静かに口に出す。

「うれしかったんだ」

一言一言が 赤橙色の景色に溶けていく。

「ありがとう 公野さん」



目をぱちぱちさせていた公野さんが
ふふ、と笑った。そして続ける。

「やっぱり伊月くんは 笑ってるのがいいよ」

顔が赤くなったのが自分でも分かった。
公野さんが あんまりにもまぶしい顔で笑ったから。
そのとき 俺の頭にキレッキレのダジャレが舞い降りた。

「あ!」
「わ!びっくりした なに?」
「『モテないと思ってない?』キタコレ!」
「きてないよ」

さすがに厳しいか。
と すぐに次のダジャレを思いついた俺は
おもむろに公野さんの手をとる。

「『手を繋ぐと一発殴られる』どうだ!」

繋いでいない方の手をゆらりと後ろに引く公野さん。

「…殴れってことかい?」
「違うって!ちょ 拳構えるな!」



コートの外には 公野さんという
とびきり心強く 安心する仲間がいる。
彼女がいるから今の俺があって きっとこの先も頑張れる。

だから もし公野さんが悲しむことがあったら
誰よりもはやく やさしく
彼女の手を取ろう。



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