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となりの彼。【黒子のバスケ短編集】

第26章 となりの伊月くん*back ground



柱に寄りかかり 珍しく先に来ていない日向を待っていると
隣から声が聞こえた。

「でも今日で上映終わっちゃうよ?」

そうか この人も映画観に行くのか。
と 程なくして俺の携帯が鳴った。

「どうした日向…は?限定の武将フィギュア買うから行けない?
ちょっと待てって日向 あの映画今日で終わっ…」

切りやがった どんだけ武将好きなんだあいつは。
なんとなく隣を見てみたら 俺の知っている人がいた。

「伊月くん…?」
「あれ 公野さん」



観たかった映画が一緒だと分かり 俺たちは劇場に足を運んだ。
幸運にも続けて二席取ることができ 飲み物とポップコーンを持ち席に着く。

ポップコーンをつまんでいると 公野さんがふいにくすりと笑った。
塩派だったのか よかった。

「どうかした?」
「ん?いやいや ちょっと思い出し笑いしただけ」
「もしかしてこの前俺が言った
『バスぶっとばす』ってやつがじわじわ…」
「きてないよ」

ぐさ、と俺の心に刺さった。
こういうところが 良くも悪くも公野さんらしい。



少しすると辺りが暗くなり 上映が始まった。
バスケ選手の半生をなぞった実話だ。
スクリーンの中でバスケの試合が始まった。
天才と謳われるライバルのいる強豪チームを相手に
主人公のチームが健闘したものの 最終的に負けてしまった。



スクリーン越しに この夏にあったことを思い起こす。
秀徳戦で高尾の能力を見たときの焦燥感
桐皇との試合で味わった敗北
頭がまっさらになっていくあの感じ。

もう負けるのは嫌だ
強くなりたい 強くならないといけない
このままじゃ 終わることなんてできない。

無意識に握っていた手の甲に
ふわ、とあたたかいものが触れた。

つぶれそうだった心を繋ぎとめるように
壊してしまわないように そっとゆるく重ねられた手から公野さんの体温を感じる。

心のどこかで 俺はひとりで戦っていたんじゃないかと思っていた。
でもそんなの間違いで 勝つときも負けるときも
いつだって仲間といて 支えられている。
そんな風に思えた。



映画が終わるまで手は繋がれたままだった。
少し冷たい公野さんの体温は エンドロールの終わり際に静かに離れた。



to be continued**
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