第22章 となりの黄瀬くん*back ground
毎週水曜日 夜7時から9時まで。
それが俺が彼女に会える時間。
けして多くはない もっと一緒にいたい
たった2時間じゃ 俺には足りない。
勉強を教えてもらう体で、といっても
インターホンを鳴らすときは毎週緊張する。
やや遅れてドアが開き 彼女が部屋から覗いた。
「いらっしゃい 涼太くん」
「こんばんはっス 公子っち♪」
「よし じゃあ今日は先週やったところの復習からしよっか」
「マジ難しいやつじゃないっスかー!
やる前から頭溶けそうっスよ 公子っち…」
大丈夫だって、と言う彼女。
そうっスね 公子にハグしてもいいんなら頑張れるっスよ!
なんて言えるわけがなかった。
「なんで俺と公子っちは小学校のとき同じ勉強してたのに
今こんなに差があるんスかねー」
はたらかない頭を押さえながら 俺はなんとなしに
自分の課題をする公子っちの手元を覗き込んだ。
何スかこれ 暗号か何かっスか?
「頑張ってきたものが違うんじゃない?涼太くんはバスケで 私は勉強」
「いやもっと根本的なスペックが違うんスよ きっと」
ふふ、と笑う彼女の笑顔に 不覚にも頬がゆるむ。
「あ ほらここ使う公式違うよ」
「あ!なんでxとかyとか正体明かさないんスか…」
がんばれー、という言葉に励まされながら
俺はもういちど初めから問題と向き合いはじめる。
と そのとき彼女がおもむろにペンを回した。
「! 公子っち さっきのもう1回やってほしいっス!」
「え?いいけど…」
もう一度やってみせてもらう。
よし もう覚えた。
「俺もできるっスよ それ」
「えー?またまた…」
ほら、と俺もやってみせる。
彼女は目をまんまるにさせて驚いていた。
「すごいね 一回見ただけなのに」
「真似っこなら大得意っスよー俺!」
「ほらほら 手止まってるよ」
「じゃあもう1回やるっス!」
「ペン回しじゃなくて問題!」
もう、と少し困った顔で俺を急かす彼女。
そんな顔も好きっス!なんてことも
恥ずかしさのあまりに言えなかった。
他の女の子たちとはどこか違う
公子っちには ペースを乱されてばかりだ。
to be continued**