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となりの彼。【黒子のバスケ短編集】

第8章 となりの伊月くん。



「いい話だったね 感動した」
「そうだな いい選手が多かった」
「着眼点全然違うね…」

映画を観終わった私たちは
夕暮れに染まる公園の道で感想を言い合っていた。
伊月くんは 私が手を握ったことについて何も触れなかった。



「あのさ伊月くん 私手を…」

そう切り出すと 伊月くんは黙ってしまった。

「伊月くん?」
「…もうひきずってないと思ってたんだ」
「え?」

それから伊月くんはぽつぽつ話しだした。
試合で負けたこと、そのとき感じた無力感、
それより前の試合で 自分より優れた能力を持つ選手と対峙したこと。

「負けるのは気持ちがいいもんじゃないし悔しい
でも今日の映画を観て思ったんだ」
「何を?」
「勝つときに仲間がいるように
負けるときも 俺はひとりじゃない」

そう言って 伊月くんは私の手を指さす。

「うれしかったんだ」
「いやーでも…」
「うれしかった
ありがとう 公野さん」

にこ、と笑う伊月くんの顔は
手を繋いでいたとき 私が望んでいたものだった。

「ふふ」
「なに?」
「やっぱり伊月くんは 笑ってるのがいいよ」
「…うん」

我ながら恥ずかしいことを言ってしまったと思っていると
伊月くんが突然叫んだ。

「あ!」
「わ!びっくりした なに?」
「『モテないと思ってない?』キタコレ!」
「きてないよ」
「厳しいな…」

うーん、と唸りながら伊月くんは おもむろに私の手を取る。

「え なになに!」
「『手を繋ぐと一発殴られる』どうだ!」
「…殴れってことかい?」
「違うって!
ちょ 拳構えるな!」



伊月くんはひとりじゃない。

でも もし君がかなしむことがあったら
そのときはいつでも手をにぎってあげるよ。



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