• テキストサイズ

となりの彼。【黒子のバスケ短編集】

第8章 となりの伊月くん。



「え?行けなくなった?」
ごめーん、と電話越しで謝るのは友だちの相田リコ。
「でも今日で上映終わっちゃうよ?」
ほんっとごめん また学校で!と言われ
ちょっともーお父さん!という声の途中で電話を切られた。

はぁ、とため息をついたところで
隣からどこかで聞いたことのある声が聞こえた。

「は?限定の武将フィギュア買うから行けない?
ちょっと待てって日向 あの映画今日で終わっ…切れた…」

その人とふいに目が合い 声の主が分かった。

「伊月くん…?」
「あれ 公野さん」



伊月くんのことは周りの人より 少しよく知っている。
友だちが前 彼に片想いしていたときに
情報収集をさせられていたので少し前までよく話していた。
もっとも 友だちが話に加わって早々彼のダジャレが炸裂して
彼女の気持ちが一気に冷めたらしいのだけど。



「ごめんね つきあってもらっちゃって」
「いいって 俺も同じの観に行く予定だったし」

成り行きで一緒に映画を観に行くことになった私たちは
程良く席が埋まっている劇場内の席に腰を下ろした。
当たり前のように続けて二席頼むところが
良くも悪くも伊月くんらしい。

「ふふ」
「どうかした?」
「ん?いやいや ちょっと思い出し笑いしただけ」
「もしかしてこの前俺が言った
『バスぶっとばす』ってやつがじわじわ…」
「きてないよ」
「そんなきっぱり言わなくてもさ…」



少し時間をおいて上映が始まった。
とあるバスケ選手の半生をなぞったドキュメンタリーだ。

話は進み スクリーンではバスケの試合の場面になっていた。
前中盤はわくわくしながら観ていたが
終盤で逆転され 主人公のチームは負けてしまった。

あーあ、と思いながら何気なく隣の伊月くんの方を観ると
少し悲しそうな顔をしながら まっすぐスクリーンを見つめていた。
そのとき リコが数日前
バスケ部が同じ県内の強豪校に負けたと言っていたのを思い出した。
彼の手元を見ると 握った拳が少し震えている。



私は無意識に伊月くんの拳の上に手を重ねていた。



その試合を観ていたわけではないけど
バスケについて私は詳しく知らないけど
彼のつらそうな顔は見たくない。
笑っていてほしいんだ。



to be continued**
/ 68ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp