第2章 朔
花の言葉に、しーちゃんの動きが、また止まる。
「花?」
「もう、無理」
顔をあげて、はじめて涙に気づいても、全然動揺する様子もなく、指先でしーちゃんは花の涙を拭ってくれた。
「何が?」
拭ってくれる指先は優しいのに。
言葉が。
声が。
怖い。
「花は、しーちゃんの何?」
「え?」
「花は、しーちゃんにとって、何?」
しっかりと、しーちゃんの瞳を見つめると。
しーちゃんは、ふっ、て笑って。
「『彼女』でしょ?」
そのまま、首筋に顔をうめて、しーちゃんは行為を、再開した。
『彼女』。
ずっと。
ずっとずっと。
聞きたかった言葉。
欲しかった言葉。
なのに。
なんでこんなに悲しいの。
なんでこんなに、寂しくなるの。
「しーちゃん」
起き上がろうとした体は、力が加わったしーちゃんの両手で、簡単に動きを封じられた。
乱暴に組み敷かれたベッドのスプリングが、軋む。
絡んだ両手が、痛い。
「何」
低い、声。
「もう、やだ」
「なにが?」
感情のない、低い声。
「しーちゃん、もう無理だよ、花」