第2章 朔
目を閉じて早口でまくし立てたセリフに。
首筋にあてられていた唇と舌の動きが止まった。
「……………いつ、するの?結婚」
シンクについたままの両手に、知らずに力が入る。
少しだけ、空いた間。
に。
振り返ろうと首と顔を動かした、瞬間。
「もう、した」
「え」
低く呟かれた言葉。
その意味を問いかける前に、振り向きかけていた顔を強引に支えられて。
唇が、重なった。
「…………………んぅ……っ」
なんにも考えらんなくなるような、深いキス。
違う。わざと、なんにも考えらんなくしてるんだ。
花が余計なこと考えないように。
だって。
『もう、した』
って。
もう、結婚した、って、ことだよね?
「しーちゃんっ、待って。もうした…………って……っ」
無理な体勢からの深いキスに呼吸が苦しくて。
思い切り顔を反らして、唇から逃げたついでにしーちゃんと、向き直る。
だけど。
言葉を紡ぐ前にまた、口内を蹂躙するしーちゃんのキス。
今度は片手で顎を持たれて、顔を動かすのさえ叶わない。
呼吸が出来なくて。
苦しくて。
勝手に涙が溢れてくる。
唇が離された頃には。
自分で立ってられないくらに、もうなんにも考えらんなくなってた。
「花」
いつのまにか、気付けばベットの上で。
見上げたしーちゃんの顔は、いつもと全然変わらない笑顔。
しーちゃんの瞳にうつる花は、しーちゃんと同じように、笑ってた。
笑ってた。
私、笑えるんだ。
しーちゃんといるだけで、ちゃんと笑えるんだ。
すごいな。
花は、いつのまに心にまで嘘をつけるようになったの。
首筋に吸い付くしーちゃんの髪の毛が、ふわふわしてて。
くすぐったい。
絡まった両手から感じる温もりが、心地いい。
だけど。
見上げたいつも見ている天井は、歪んでいて。
よく見えない。
両手から感じる温もりは暖かいのに、指先の血液は冷えきっている、感覚。
いつも感じるしーちゃんの重みも、今は感じない。
「しーちゃん、もう止めよう?」