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依存愛-彼と過ごした3000日-

第2章 朔


「なんで?」
「しーちゃんのことが、わからない」


今まで。
大事に大事にしまってた何かが。
一気に崩れ落ちた。

足元から一気に真っ暗闇に、落ちていく。

「これ以上しーちゃんのそばにいたら、壊れちゃう」

もう自分に嘘をつくの、疲れた。
しーちゃんを信じるの、疲れた。



『結婚する』
『子供出来た』


『もう、した』


なんで全部、事後報告なの?
花は、当事者じゃないの?


『ちゃんと付き合おう、花』

嬉しかったのに。
すごくすごく、嬉しかったのに。



「…………花」
「……や……っ」


また、近づいてくるしーちゃんから、唯一動く顔だけを目一杯動かして、唇を噛み締める。
花にできる、精一杯の抵抗だ。



「花は、俺がいなくて生きていけんの」



「…………」



手首にかかっていた圧迫がなくなって、軽くなるのと。
降ってきた声が同時で。
しーちゃんから顔は反らしたままで、ゆっくりと瞳を開く。

生きていけない。
しーちゃんのそばにいないと、呼吸の仕方も忘れそう。


しーちゃん。
しーちゃん。

しーちゃんがいないと、花は生きていけない。

だけど。


しーちゃんのそばにいたら、私は壊れちゃう。
だめになる。



「俺なしで、生きていける?」



涙が止まらない。


しーちゃんがいなくなるなんて考えただけで無理。
そんな日が来るなんて、考えたことなかったから。
自分からしーちゃんを手放す日が来るなんて、思ったこともなかったから。


でも。
だけど。


小さく、コクン、とだけ。
頷く。

言葉にしたら違う言葉が出てきそうだから。

短く頷くので、精一杯。


「わかった」


途端に。
重みがなくなった、体。
ベッドのスプリングが軋む音だけが、やけに耳響いた。


「ばいばい、花」


その言葉を残して。

玄関の重い音を響かせながら。


しーちゃんは花の前から、いなくなった。






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