第2章 朔
「しーちゃん」
「んー?」
夕食も平らげて、片付けも終わって。
時計を見れば9時を回ってた。
しーちゃん、そろそろ帰る時間だ。
ならやることは、ひとつしかない。
花がこの水道止めたら、しーちゃんの、隣に座ったら。
たぶんきっと、なんにも考えらんないくらいにめちゃくちゃに抱かれて。
また、いつもの日常が始まる。
たぶんきっと、それでもいいんだと思う。
むしろ。
たぶんきっと。
花はそれを、望んでる。
「どした?花?」
両手を後ろ手に床にくっつけながら、しーちゃんが顔だけで花を振り返る。
「……………うん」
「……………」
止められない水道を、ゆっくりとした動作で後ろに回ったしーちゃんが、代わりに止めた。
「終わった?洗い物」
「……………うん」
やっぱり、流されちゃうのかな。
しーちゃんに抱かれたらたぶんもう、なんにも言えない。考えらんない。
「花」
耳元に寄せた唇が、甘く囁く声に。
背筋が甘く、溶けだす。
胸元にまわされたしーちゃんの体温。
ぬくもり。
しーちゃんの、匂い。
どれをとっても、心地好くて。
何もかも、どーでもよくなってくる。
「……………」
でも。
だけど。
「…………安定期、入ったんだね、彼女」