第2章 朔
ピンポーン
て、時間どーりに鳴らされた、ドアフォンの画面にうつるのは最愛の人。
自然と顔の筋肉が緩む。
「しーちゃん」
「花、ただいま」
『ただいま』。
笑顔で花をぎゅう、って抱きしめるしーちゃんの腕はいつもと一緒のはずなのに。
なんでかな。
心臓が、うるさい。
『今日仕事で近く行くから、帰り寄ってく。7時くらいかな』
朝早くに鳴らされた携帯画面に浮かび上がった文字。
いつもどーり。
花の予定なんて、聞かれたことない。
まぁ、もっとも。
仕事じゃない限りはどんな予定があっても花はたぶん、しーちゃんを優先する。
彼はそれをよく、知ってるんだ。
「先にシャワーだよね?お風呂、すぐ入れるよ」
「さすが花。気が利くじゃん」
「タオルと着替え、ラックの中に入ってるから」
「ん、サンキュー」
ちゅ、て。
触れるだけのキスを残して。
しーちゃんは浴室のドアを開けた。
そう。
いつもどーりに。
普段と何も変わらずに、『何も』なかったよーに。
怖いくらい。
彼はいつもと変わらなかった。