第2章 朔
「わかるよ、花の気持ち。ずっと一番近くで見てきたんだから。」
「……………」
「だけどさ、そろそろ潮時じゃない?」
潮時。
「……………しーちゃんにさよならしろってこと?」
震えるくらいに哀しかった気持ちが一瞬にして、消し去った。
代わりに上書きされたのは。
「え、まさか花?」
顔を上げた花を見て、頬杖ついていた片手をその頬から離すと。
澪は驚いたように花を見たんだ。
「結城と、続けるつもり?」
「…………………」
考えたこと、なかった。
しーちゃんとさよならするときが来るなんて。
『結婚する』
『子供出来た』
しーちゃんから聞いた言葉はこのふたつ。
『さよなら』
は、聞いてない。
「花、今すぐ結城と別れて」
しーちゃんの彼女が妊娠した。
花以外の人と、結婚する。
悲しくて。
辛くて。
だけど。
『別れる』なんて。
考えてもみなかった。
「澪」
「ん?」
「別れる、って、どーすればいいの?」
「え」
『不安』。
『恐怖』。
代わりに上書きされたのは。
このふたつ。
彼を失う日がくるなんて思わなかったから。
結婚したら、そっか。
別れなきゃいけないんだ。
「………………やだ」
しーちゃんがいないと生きていけない。
彼がいないと。
花は生きてる意味を見出だせない。
「…………」
別れるなんてそんなの。
無理。