第2章 朔
澪の声に。
心に渦巻いてた闇が一瞬、途絶えた。
「花、大丈夫?」
なわけ、ない。
大丈夫なわけ、ないよ。
「………………澪」
「うん」
「しーちゃんね、別れるって。花とちゃんと付き合おうって、そう言ったの」
「え?」
「嘘じゃないよ?ほんとに言ったんだよ」
「……………」
「偶然かなぁ。このタイミングで妊娠って」
ここがカフェじゃなかったら。
たぶん笑うんじゃなくて泣いてた。
そんなくらいの精神的余裕は、まだあったんだよ。
このときは。
だけど澪は。
いつもいつも。
私を奈落に突き落とすのが、惚れ惚れするくらいに上手いんだ。
「花」
澪の険しい顔見たら。
ほんとは耳を塞いじゃいたい気分にもなったんだけど。
「偶然でも必然でも、その行為すらなかったら妊娠はしないんだよ」
頭で指令を出すよりも先に。
澪の言葉は脳裏の奥までに響きわたった。
「別れようとする女と、そんなことする結城が悪い。まして避妊せずにするとかマジあり得ない」
「………………っ」
「仮に、結城が花と本気でやり直そうとするなら、既成事実を作るような真似はしちゃいけないんだよ。―――わかるでしょ?あんなやつの言葉鵜呑みになんかしちゃダメ」
わかってるよ。
わかってる。
だから、『怖い』の。
ずっと『不安』だったんだよ。
信じたかったんだもん。
しーちゃんの、言葉。
信じたかったんだよ。
『このタイミングで妊娠って、偶然かなぁ』
彼女のせいだって、思った。
「………………すごいね、澪」
しーちゃんが別れたがってる今、このタイミングで妊娠なんて絶対偶然じゃないって。
「花?」
だけど澪は、そんな花の僅かに出来た隙間さえも、全部、奈落へと突き落とすんだね。
『行為すらなかったら、妊娠なんてしない』
「ほんと、すごい」
根本から、間違ってた。
しーちゃんが彼女を抱かなければ、そもそも妊娠なんてしない。
「花?」