第2章 朔
「花」
じめじめとした梅雨に入った6月後半。
だいぶ、うーん、なんとか、仕事にも慣れてきた。
「久しぶり、澪」
「うん」
配属されたところが違う澪とは、こーして外で会うのはたぶん、1ヶ月ぶりくらい。
「仕事どぉ?」
「なんとか、やってます」
「忙しいよね、ほんと学生時代が懐かしいー」
適当に、ショッピングを楽しんで。
ランチして。
またショッピングして。
ついでにお茶するために入ったカフェでは、すでに1時間以上が経過してる。
まぁ、女の子のお出かけなんてこんなもん。
適当に、ぶらぶら。
これ基本ね。
「ねえ花」
「んー?」
おかわりしたホットコーヒーに視線を落としながら、澪のいつになく真剣な声に顔を上げると。
澪のまっすぐな視線が、花を見据えてる。
「…………………澪?」
「花、結城とはまだ続いてんの」
「……………なんで?」
無表情なその顔と、声に。
自然とこっちまで顔が怪訝に歪む。
「結城、結婚するんだよ」
「………………」
彼から、聞いたんだ。
しーちゃん、亘くんにも話したんだ。
『安定期に入るまで、誰にも言わないで』
しーちゃんはそう、気まずそうに視線を反らしながら花にも口止めした。
年下の彼女の体を、気遣って。
そっか。
安定期、入ったんだ。
「知ってる」
「え」
「しーちゃんから直接、聞いたから」
ほんとはね。
ほんとは。
心の中で。
頭の、中で。
悪魔がずっと、囁き続けてる。
「……………安定期入ったんだね」
悪魔の囁きを払拭したくて。
口に出して復唱してみても。
消え去るどころか真っ黒い感情が大きくなっていく。
「花」
『俺と結婚したいみたい』
『プロポーズされんの、待ってんじゃね?』
だってタイミング、良すぎない?
『ちゃんと、別れるから』
「花」
『修、辛そうで』
『花が好きだよ』
「花ってば!」