第2章 朔
3月。
去年は澪たちと一緒だった誕生日も、今年はしーちゃんが一緒にお祝いしてくれた。
学生最後の春休みを利用して、教習所に通い始めた花のフォローも、時間があく限りはしてくれた。
それから、引っ越しの手伝いまで。
なにからなにまでしーちゃんがいつもそばにいてくれて。
怖いくらい、幸せで。
こんなに満たされた時間が続けば続くほど、不安も一緒に比例して加算されてく。
「いい匂い」
「しーちゃん」
「何作ってんの?」
「卵スープ」
引っ越しの荷物を全部運び終わったあと、コンビニで買ってきたお弁当に、簡単に作れる玉子スープを作ろうと、思った、んだけど。
「卵がふんわりできない」
「混ぜんじゃなくて、沸騰したとこに卵入れんだよ。今度やってみ?」
「しーちゃん、よく知ってるね?」
「そう?花が知らないだけ」
後ろから、頭のてっぺんにキスが落とされて。
ぎゅって、そのまま抱き締められると。
新しいシャンプーの匂いが、鼻を掠めた。
「危ないよ?」
耳たぶや、ほっぺた。
唇から与えられる体温が、徐々に下にさがっていく。
「じゃ、火止めれば?」
「夜ご飯は?」
「あとで」
「遅くなるよ?」
「俺、今日けっこう頑張ったのに」
「……………」
お鍋のふたをしめて、IH の電源オフ。
くるっと、体を回転させてしーちゃんを見上げた。
「ありがとう」
「お礼は言葉よりも態度で示して欲しいな」
「だから、今スープ作ったのに」
「うん、ありがとう」