第2章 朔
「………………………?」
夢?
聞き慣れない音楽が、遠くでなってる。
でも。
花のじゃ、ない。
眠いのに。
うるさい。
携帯?
「………………ん」
音を消そうと、手を伸ばした時。
右手に触れる、暖かい、感触。
「……………花」
その手が『誰』のものか、頭が認識した。
瞬間。
「花」
大好きな声が、今度はしっかりと、耳に届いた。
「おはよう、ねぼすけ」
「………………しーちゃん」
そうだ。
昨日、泊まったんだよ、ね。
「ご、めんしーちゃん、時間、大丈夫?」
「まだ全然平気」
「ごはん、たべるよね?」
「作れんの?」
………………それ、返す言葉に困る。
固まった花に苦笑して。
「卵、牛乳、バター、ね。あるじゃん、ちゃんと」
冷蔵庫をのぞきこみながら、言葉にした材料を取り出していく。
「砂糖は?ある?」
慌てて、ベッドから這い出して用意した材料の隣に砂糖を並べた。
「バター以外ボウルに出して混ぜて」
「……………う、ん?」
言われたまま、シャカシャカまぜてると。
四つ切りに小さく切られた食パンが投入された。
同時進行で、バターの焼けるいい匂い。
「フレンチトースト?」
「正解」
「すごい、しーちゃん、作れんの?」
「これ、目玉焼きと同じレベルな」
「………………そうですか」
ヒタヒタに染み込ませたパンを、バターを引いたフライパンの上に並べると、美味しそうな音と一緒に食欲をそそる甘いいい匂い。
「作り方、覚えた?」
「覚えた!」
「じゃ、次は作ってね」
「うん!」
『次』の言葉に勝手に顔が綻ぶ。
「しーちゃんは、ミルクなし?」
「そう」
そろそろ出来上がりそうな匂いに合わせて、テーブルにコーヒーを用意。
それから、適当に野菜を切って簡単なサラダを作ったら。
「いただきます」
「美味しそう!いただきます」
大好きなしーちゃんと向かい合って食べる朝食は、特別においしかった。