第2章 朔
「これが、強引ってゆーの」
涼しい顔して笑うしーちゃんを、ひとにらみ。
「苦しそうにしてる花も可愛かったけどな。ああこれ、これもはまるかも、俺」
「?」
「苦しそうに耐えてる花のチュー顔」
な………っ!
ぼんっ、て。
効果音つきの湯気が頭から出たきがするよ。
「………変態っ」
「だから、花にだけだってば」
ぽんぽん、て。
右手を頭の上におくしーちゃん。
「全部、俺が教えたんだよ」
「え?」
「キスの仕方も、男に媚びる方法も。全部、俺が教えた。こんな風に女の顔ができるまで、俺が育てたんだよ」
「え?」
目一杯しーちゃんを見上げる花の唇を、しーちゃんの親指がなぞると。
また、先ほどの体温が甦る。
「花は、俺が女にしたんだよ」
頭ごと抱き寄せられると、ほっぺたがしーちゃんの胸にくっついた。
「怖くなくなるまで、言ってやるよ」
「なにを?」
「花、愛してる」
耳元で囁かれた言葉が、心臓をひと突きに貫く。
「聞こえた?」
突き刺されたままの心臓が、動きを再開するまで。
一瞬時間がほんとに止まったかと、思った。
「………………聞こえない」
「じゃ、もう1回?」
ふわっと微笑んだしーちゃんの視線が、優しくて。
瞳が、優しすぎて。
「愛してる、花」
はじめてみる表情に。
涙が溢れた。
「だから、なんで泣くの」
「違うっ、勝手に、出てくるの」
慌てて両手で涙を拭うと。
そっと両手をもたれて。
「せっかくかわいいメイクしてんのに、擦ったら落ちるだろ?」
って。
自分の人差し指で、優しく涙を拭ってくれた。
「だってしーちゃんがそんなことゆーから」
「はいはい。わかった、わかったから」
また泣き出しそうな花を、しーちゃんの腕の中にぎゅって、閉じ込めて。
「今まで、ごめんな」
言葉にしたらまた泣き出しそうで。
必死に首を横に降った。
「花が辛い思いしてるの、知ってたよ」
コクン、と、短く返事、して。
「それでも、ずっとそばにいてくれてサンキューな」
大好きなしーちゃんに、身を預けたんだ。