第2章 朔
「俺、花ほんと好きだよ」
しーちゃんの頭に手を乗せたまま固まった花の手に、顔を右肩に埋めたまま、しーちゃんの手が重なった。
「花といると癒される」
意味が、理解出来ない。
「花がずっと俺のこと好きでいてくれてるの、すっげー嬉しかったし。俺も花、好きだよ」
重ねた手はそのままに、首筋から顔を上げたしーちゃんと、同じ位置で視線が絡んだ。
「………………なんで泣くの?」
なん、で。
なんの、涙?
……………………ああ、そっか。
「怖い、から」
「怖い?」
「こんなに幸せだと、怖くて。この幸せが消えた時がすごくすごく怖い」
「なんで終わること前提?」
「………………終わらないの?」
「花が俺のこと嫌いにならない限りはね」
「そんなの、あるわけないじゃん」
「じゃ、大丈夫じゃん?」
「………………っ」
それでもやっぱり怖いよ。
手にはいらないものを手に入れてしまったら。
失った時の傷は想像出来ないんだよ。
どうしても。
今が幸せすぎると。
失った時のことを思わずにはいられない。
「これでも、怖い?」
「え?」
ふわっと。
重なった唇。
だけど。
さっきとは全然違う。
優しく進入してきたしーちゃんの暖かい体温のそれは。
ゆっくりと時間をかけて、甘い時間を花に与えてくれる。
キス、って。
こんなに気持ちよかった?
こんなに、甘いもの、だった?