第1章 夜暁
「花、愛してる」
「花も、しーちゃん愛してる」
そのまま、深くなる口づけを受け止めた。
このまま。
このまま彼に身を任せて快楽に溺れるだけ溺れたい、けど。
彼にどろどろに蕩けるくらいに愛されたい、けど。
「しーちゃん」
現実はそれを決して許してはくれないんだ。
「ん?」
「忘れ物だよ」
キスの合間に。
キッチンに置きっぱなしになっていた『忘れ物』を指差すと。
みるみる怪訝に表情が曇っていく。
「今言わなくてよくない」
「今、視界に入ってきちゃった」
「ん、まぁいいや別に。花」
気にもせずに、彼は私のシャツへと手をかけていく。
そのままパサリとシャツを床へと投げ捨てれば。
膝裏へと手をかけて、慣れた手つきでソファーへとおろすのだ。
「そんなに気になる?」
覆い被さるように上に股がったまま、耳裏、頬、首筋、と、舌を這わせたままで、しーちゃん。
「………っ、に、気にしてない」
「のわりに、集中してないけど?」
「…………」
「……………………はぁ」
大きなため息をついて、立ち上がった彼が手にとった忘れ物。
彼はわざとらしく、それを左手薬指に、嵌めた。
「……………」
「そんな顔すんなら言うなって」
『結婚指輪』。
彼がしてるのは、それ、だ。
「うん…………」
「大丈夫、俺が好きなのは花だから」
瞼や、口元、ほっぺたにリップ音を響かせながら。
彼は私を、その手に抱き締めた。
「…………しーちゃんの、匂い」
途端に鼻を掠めるのは。
大好きな大好きな、しーちゃんの匂い。
「愛してる、しーちゃん」
温もりを確かめるように、彼の背中に手を伸ばして。
力いっぱい、抱き締めた。
「愛してる」
愛してる。
だからお願い。
花だけを、愛してーーーーー。