第2章 朔
しーちゃんの助手席は、好き。
普段は彼女の特等席でも、今は花の場所。
ここから、運転してるしーちゃんを見てるのは、大好き。
「そんなに見つめられると、溶けちゃうよ?」
「え?」
視線はまっすぐに前を見たままで、しーちゃんがそう言って笑った。
「え?なんで?」
「そんなに熱い視線送られたら気づくだろ、ふつー」
「え、そんなに見てた?」
「うん、視線感じた」
「ご、めん。無意識だった」
「無意識って、一番正直な自分の気持ちなんだよ」
「え?」
「無意識に、見つめちゃうくらい俺が好き?」
ハンドルはそのままに、少しだけ花に視線を合わせながら、しーちゃんが微笑んだ。
「…………知ってる、でしょ」
「『知ってる』よ」
……………聞いても、いいのかな。
言っても、いい、のかな。
「しーちゃん、は?」
「なに?」
「しーちゃんは、花、好き?」
赤信号で、車が停車。
後ろの車のライトが、眩しいくらいの、距離で。
すごく、近くにある。
眩しくて、視線をしーちゃんからサイドミラーにうつした瞬間。
触れるだけの、軽い衝撃が、唇に降ってきた。
「好きだよ」
あんまりふわっとしすぎてて。
今のがキスなのか、指先なのか、頭が認識出来ない。
『無意識』に、左手を口元にもってった。
「足りない?」
ふって。
目を細めて笑うしーちゃんの顔が目の前に来たのを認識した途端。
ビーっ
って、車のクラクションが、うるさいくらい鳴り響いた。