第2章 朔
「どーしたの?ひとりで見たの?」
「えー?さすがに、帰ったよー」
澪の顔、見れない。
ラブラブで、彼氏に愛されまくってる澪に、同情なんてしてほしくなくて。
なんでもないふりするけど。
余計に惨めになるだけだ。
はぁ、って。
ひとつ小さくため息を漏らしたところで。
ポケットの中の携帯が、震えた。
『何してる?』
『授業中』
『会える?』
『彼女は?』
『知らない』
『ケンカ?』
『花に会いたいな』
『いいよ』
『仕事終わったら迎えに行く』
『了解』、の、かわいいスタンプが既読になったのを確認して。
ラインを閉じた。
「……………ちょっとは懲りなよ」
携帯をポケットにしまいながらホワイトボードに視線を向ければ。
盛大なため息が横からふってきた。
「勝手に見ないでくれる」
少し、いや、かなり、膨れて横見れば。
「見てない。顔見てればわかります。結城、何時にくんの?」
なんて。
相変わらずの素っ気なさ。
もちろん悪びれてなんてない。
たぶん彼女はほんとに携帯見てないから。
自分でも。
顔の筋肉が緩んでるのは自覚してるし、彼女のゆーとーりなんだ。
「7時くらい?」
「あたしも付き合うよ」
「え?」
「一発ぶん殴る」
「…………………え」
「冗談だよ」
あからさまにひきつった花を見て、澪はそう言って笑いながら、今度は真面目にホワイトボードに向き直った。
今、眼がマジだったよ。
「なんでいんの」
「いちゃ悪い?」
「澪、しーちゃんも、ケンカしないで、ね?」
仕事終わりにいつものカフェに向かいに来たしーちゃんは、一緒に車に乗り込んで来た澪を見て、あからさまにため息。
「一発殴ってやりたいところ、押さえてんだから」
「なんで俺が殴られんの。彼氏でも殴っとけよ」
「……………花、一発じゃ足んないかも」
「澪ー」
「こいつやっぱりムカつくんだけど」