第2章 朔
「にやにやしすぎ」
「だぁってはじめてしーちゃんが花に買ってくれたんだもん」
「ってそれ、夏祭りの一個300円のおもちゃだぞ?」
「いーの、花、宝物にするよ」
左手を目の前にかざして。
キラキラ光る薬指を見つめた。
「そんなんでいいの、お前」
「しーちゃんがくれるなら、なんでも嬉しいよ?」
「花はほんと、かわいいな」
夏祭りに行くこと自体、ないと思ってたから。
しーちゃんと一緒に、浴衣きてこーやって歩いてるだけで、花は幸せだよ。
夢みたいな時間は長く続かないの、知ってるから。
だから、どんなささいなことでも花には宝物なんだ。
「足元、気を付けろよ?」
階段の段差。
浴衣に下駄をはいてる花に気遣って。
右手を差し出してくれたしーちゃん。
「いいの?」
「こんな暗い中、誰も見てないよ」
「うん」
差し出された右手を握って。
階段を降りよーとした、その時。
携帯の、着信音がなり響いた。
20代、はじめての夏。
彼女とケンカしたしーちゃんは、花を夏の花火大会に誘ってくれた。
昨日の夜、しーちゃんから連絡あった時は飛び上がるくらい嬉しくて。
予定してたゼミのキャンプをドタキャンして、澪との日中デートもキャンセルして。
速攻で浴衣を買いに行った。
着付けの本も購入して、頑張って自分で着付けたんだよ。
「似合うじゃん」
迎えにきてくれたしーちゃんは、そー言って誉めてくれた。
屋台の指輪も買ってくれた。
おもちゃでもなんでも、しーちゃんが花に買ってくれたことが、すごく嬉しかったの。
明るいうちから回り始めたお祭りは。
辺りが暗くなるに連れて人もだんだん増えていって。
そろそろ花火が始まる頃。
土手沿いの草むらに降りるため階段を降りようとした時。
しーちゃんの携帯が、なった。