第1章 夜暁
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……………………………。
「何考えてた?」
「……………………見惚れてた」
隣で腕枕してくれながら、夢現に欠伸をひとつ。
彼はまだ、半分夢の中。
あの頃と変わらない、寝ぼけ顔。
変わらない体温。
声。
変わったのは、あたしたちじゃない。
変わってしまったのは。
『時間の流れ』、って、やつだ。
「……………なんじ?」
目を擦りながら時計を探すその仕草がかわいくて。
スヤスヤ眠るきれいな寝顔を見ていたくて。
いつも寝ないで起きてる、って言ったら。
私の隣では眠ってくれなくなっちゃうかな。
「3時、すぎ」
「んー」
眠い。
って、一言呟きながら枕に顔を埋めてるのは。
紛れもなく。
私の最愛の人。
「帰んのだりー」
「泊まってけば」
「……………いや、帰る」
枕に顔を埋めること、数秒。
彼は決心したように起き上がった。
「………………そっかぁ」
わかってた答え。
彼が泊まるわけないの、知ってるもん。
知ってるけど、聞いてみちゃってる私の気持ちくらいは、彼にはお見通し。
「寂しい?」
さっきまでの寝ぼけ顔なんてどこにもなくて。
憎たらしいくらいに自信満々な笑顔が、そこにある。
「………………寂しい、よ」
「うん、花の泣きそうなその顔、好き」