第1章 夜暁
わかってる。
今は花よりも大好きな彼女との時間。
こんな時間に連絡したら、たぶん怒られる。
独占欲の強い年下の彼女は、しーちゃんの携帯までも管理してるんだから。
以前ラインしたら、ものすごい勢いで電話がかかってきた。
わかってたけど。
送らずにはいられなかった。
もしかして。
彼女よりも、花を優先してくれるかも。
花のこと、心配してくるかも。
連絡、してくれる、かも。
そんなわけないの、わかってたのに。
余計傷口えぐるだけなのに。
どーしても、信じたかったんだ。
だけど。
30分たっても。
握りしめた携帯が動き出すことはなかった。
「………………しーちゃん」
アパート裏の公園で、うずくまりながら読んだ名前は。
誰にも受けとめられないまま、空に消えてった。
助けて。
苦しいよ。
花のそばにきて。
今日だけは、花を優先して。
いつもみたいに、ぎゅーってして。
頭なでて、抱き締めて。
声を、聞かせて。
声だけでもいいから。
『大丈夫か?』
って。
一言、甘い声で花を呼んで。
それだけで癒されるから。
そんなことだけでも、花の心は救われるんだよ。
「……………なわけ、ないし」
いくらこんなところでしーちゃんを思っても。
しーちゃんに届くわけない。
わかってる。
突き付けられた現実に。
涙が止まらない。
花が誰よりもしーちゃんを優先しても。
しーちゃんが優先する相手は花じゃない。
しーちゃんの一番大事な大事な彼女は、年下のかわいいあの子。
わかってるよ。
「しーちゃんの、ばかぁ」
「誰がバカだよ、ばーか」
急に聞こえた、被せるように発せられた待ち望んだその声に。
時間も涙も、止まった気がした。
「しー、ちゃん?」
「ん?」
「なんで?」
「ラインした。そこの裏について、電話もした」
「え?」
携帯をみると。
ラインと着信のお知らせ。